視力低下に悩み、何とか視力を回復したいと考えている方は少なくありません。しかし、視力が落ちる原因は、近視・遠視・老眼で異なります。また、視力の低下は、遺伝や生活環境などにも大きく影響されるものです。
そこでこの記事では、視力が落ちるメカニズムや、視力低下と関係が深いさまざまな要素を解説します。症状回復に役立つとされるトレーニングやツボ、ツールなども併せて紹介するので、「視力をこれ以上落としたくない」という方はぜひ試してみてください。
まず、近視、遠視、老眼で視力が落ちる原因を知っておきましょう。
近視とは、水晶体(レンズの役割を果たす部分)で屈折した光が、網膜の手前で焦点を結んでしまう状態のことです。近視の場合、近くの物にはピントが合いやすいためはっきりと見えますが、遠くの物はピントが合わないためはっきり見えません。
近視でピントが合わなくなるのは、眼軸長(角膜から網膜までの距離)が正常より長いことや、水晶体や角膜の屈折力が強いことが原因です。そして、近視になるかどうかは、遺伝や生活環境が大きく関係しているといわれています。
遠視とは、水晶体で屈折した光が網膜の後ろで焦点を結んでしまう状態のことです。遠視の場合、ピント調節をしないと近くも遠くもはっきり見えないため、目がリラックスした状態では物をはっきり見ることができません。
遠視で物が見えにくくなるのは、眼軸長が短いことや、水晶体や角膜の屈折力が弱いことが原因です。子どもの遠視は遺伝が関係していることもありますが、特別な原因がないこともあります。
老眼とは、目のピント調節能力が低下するためにあらわれる症状です。老眼になると、近くの物が見えにくくなったり、「遠くから近く」「近くから遠く」など、距離の違う物を見るときのピント調節に時間がかかったりするようになります。
老眼で目のピント調節がうまくいかなくなるのは、水晶体の弾力性が失われることや、水晶体の厚さをコントロールする毛様体筋(もうようたいきん)の筋力が弱くなることが原因です。水晶体や毛様体筋の変化は加齢にともなう生理的なものなので、避けることはできません。
次に、遺伝や生活環境など視力低下に影響をおよぼす、さまざまな要素を見ていきましょう。
両親が強度の近視の場合、子どもも近視になる確率が高いといわれており、強度近視に関連する遺伝子も見つかっています。
遺伝的な近視では、小学校低学年頃から視力低下が進行することが多いようです。逆に、大人になってから視力が低下した場合は、遺伝以外の原因が影響していると考えられます。
加齢にともない目のピント調節機能が低下してくると、「近くが見づらい」などの老眼の症状があらわれるようになります。
見え方の変化があらわれ始めるのは、30代頃からです。そして、40代になると「近くが見づらい」などの症状を自覚するようになり、40代半ばを過ぎると老眼鏡が必要になる人もいます。
なお、「近視の人は老眼にならない」という俗説がありますが、近視の人は近くにピントが合いやすいため老眼の症状を自覚しにくいだけです。老眼は加齢変化なので、近視の有無に関係なく避けることはできないとされています。
視力低下の原因は、生活環境にも潜んでいます。
例えば、コンタクトレンズや眼鏡を使っている場合でも、度数が合っていないと目に負担がかかるため、視力が低下する可能性が否定できません。
また、パソコンやスマートフォン、ゲーム機の使用など、近くの物を長時間見る生活習慣も目にかかる負担を増大させるため、視力低下につながるおそれがあります。
その他、寝転んだ状態でのスマートフォン操作、テレビの視聴、読書なども、目の健康のためにはよくありません。寝転んで物を見ると、対象物と左右の目の距離が異なるため、結果的に左右の視力に差が生じることがあります。また、物を斜めから見ることになるため、眼球がゆがんで乱視になることもあるのです。
「仕事でパソコンを長時間使い続ける」「老眼なのに無理やり近くの物を見ようとする」など、目の使い過ぎで視力が落ちることもあります。
症状が悪化すると、頭痛や肩こり、吐き気など目以外の部分に症状があらわれることもめずらしくありません。十分な休息や睡眠をとってもこれらの症状が繰り返しあらわれる場合は、眼精疲労による視力低下を疑うべきでしょう。
病気が原因で、視力が低下する場合もあります。
視力低下の原因となる病気はいろいろありますが、代表的なものは以下のとおりです。治療せずに放置すると失明に至ることもあるため、注意しましょう。
l 白内障:水晶体が濁って視力が低下する。
l 緑内障:眼圧が高くなって視神経が障害され、視力低下や視野の欠損が生じる。
l 網膜剥離:眼底にある網膜がはがれる病気。急激な視力低下から失明に至ることもある。
l ぶどう膜炎:網膜に接しているぶどう膜の炎症。視力低下や失明の原因になる。
遺伝や加齢などによる一時的ではない視力低下は、いったん進行すると回復が難しいとされています。しかし、生活環境や目の酷使などによる一時的な視力低下であれば、トレーニングなどで回復が目指せる場合もあるようです。
そこでここからは、一時的な視力低下の回復に役立つとされる方法をいくつか紹介します。
毛様体筋とは、水晶体の厚みを変えてピントを調節する役割を持つ筋肉です。毛様体筋が緊張して硬くなったり、加齢により機能が衰えてきたりすると、視力が低下しやすくなります。
毛様体筋のピント調節機能を回復させるのにおすすめなのが、近くの物と遠くの物を交互に見て毛様体筋の緊張をほぐすトレーニングです。どこでも簡単にできるペンを使ったトレーニングを紹介するので、スキマ時間に取り組んでみてください。
1. 片手にシャープペンやボールペンなどを持ち、体に対して腕を垂直に伸ばして窓の方を向く。
2. 両目でペンを3秒程度見たあと、窓の外の景色を3秒程度眺める。
3. 1と2を3回繰り返す。
一日2回行なって、毛様体筋の緊張を和らげましょう。
関連記事:
目の疲れを感じるときには、視力回復に効果的とされるツボを刺激するのもよいでしょう。視力の回復に効くとされる代表的なツボは、以下の5つです。
・魚腰(ぎょよう)
眉毛の真ん中にあるツボです。眉毛の中にあるため「眉中(びちゅう)」と呼ばれることもあります。
目の疲労や乾燥が気になる場合は、目を閉じた状態で目の奥にじんわり響くくらいの強さで押してみましょう。
・天応(てんおう)
天応は、眉頭から2~3mm下の凹み部分にあるツボです。天応は、眼精疲労の緩和に役立つツボとして知られています。
刺激するときは、両手の親指の腹を当てて小指を除く3本の指で眉毛を挟み、親指に当たる骨を上向きに突き上げるような感じで20回押してください。これを2セット繰り返すと効果的です。
・晴明(せいめい)
晴明は、目頭の少し上にあるツボです。晴明も、目の疲れに効果があるとされています。
晴明を刺激する場合は、両手の人差し指を当て、やさしくゆっくり突き上げるように20回押してください。こちらも2セット繰り返しましょう。
・四白(しはく)
四白は、目の真下にある頬骨の凹み部分のツボです。四白は、目の疲れのほか、目の下のクマの解消などにも良い効果があるとされています。
四白を押す場合は、両手の人差し指と中指をそろえて目と頬の境目に当てたあと、中指だけを離してください。そのまま親指で下あごを支えつつ人差し指で20回押し、これを2セット繰り返します。
・太陽(たいよう)
太陽は、眉尻と目じりの間にあるツボです。太陽は目の疲れだけではなく、肩こりや片頭痛にも有効といわれています。
そのため、目の疲れから来る肩こりや頭痛が気になる場合は、親指を左右の太陽に当てて、外側に向かって刺激するのがおすすめです。
スマートフォンのアプリを利用して、より手軽に視力回復トレーニングをする方法もあります。ここでは、視力回復効果が期待できる代表的な2種類のアプリを紹介します。
なお、アプリを使う際には、目にかかる負担を最小限に抑えなければなりません。規定の使用時間を守るなどして、適正な使用を心がけましょう。
・眼球運動
眼球運動アプリは、画面内の対象物を目で追って動体視力を鍛えるタイプや、目の焦点を画面に合わせて眼球運動をうながすタイプなどがあります。
一般的に、ヒトは目を左右に動かすことは多いものの、上下に動かす機会はそれほど多くありません。しかし、これらのアプリを使えば目を上下・左右にまんべんなく動かせるため、意識しなくても眼球の動きを活発化させられるでしょう。
・立体視画像(3D)
3Dを使った視力回復アプリは、ステレオグラムと呼ばれる画像を見るだけで視力回復のトレーニングができるものです。
これは、「視点を変えながら見ると平面画が立体画に見えてくる」というステレオグラムの特性を利用したもので、目のピント調節をする筋肉を鍛える効果が期待できます。
ピンホールメガネは、サングラスのような形状で、レンズの部分に細かい穴がたくさん空いているメガネです。ピンホールメガネの小さな穴から景色を見ると、はっきり・くっきりと見えるようになります。アイマスク状のタイプもあり、市販されているため、目にしたことがある方もいるでしょう。
ピンホールメガネを使用すると、毛様体筋を使わなくてもピント調節ができるため、毛様体筋に負担がかかりにくくなります。普段の生活で毛様体筋を酷使している方は、ピンホールメガネを利用して目を休ませるとよいでしょう。近視が軽度の場合、ピンホールメガネの利用で視力が回復することもあります。
ただし、ピンホールメガネを利用しても短期間で視力を回復させることはできません。また、ピンホールメガネの使用だけで低下した視力を元に戻せるわけではないため、注意が必要です。
今回は、近視・遠視・老眼で視力が低下するメカニズムと視力低下に影響するさまざまな要素、症状回復に役立つトレーニングなどを紹介しました。
視力が落ちる原因はいろいろありますが、生活環境や目の酷使などによる一過性の視力低下ならば、トレーニングなどで回復するかもしれません。ただし、症状が重い場合は医療機関を受診する必要があります。
医師の診断のもと、症状に応じた矯正用のコンタクトレンズなどを使用し、健康で快適な日々を送りましょう。